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プーチン大統領の傭兵部隊

ミリタリービジネス研究家 阿部拓磨

 シリア内戦。そしてウクライナ情勢。連日世界のメディアはこの二つの国際問題に関するニュースを報じている。だがこの紛争の裏でPMSCs(民間警備会社)が動きを活発化させていることについてはあまり触れられていない。この数年PMSCsは、”傭兵稼業”というマイナスイメージを払拭し、自身が平和活動への貢献に尽力する業態であるとアピールしつつ、活動を続けてきた。しかし、国家間対立を招く紛争やテロが増すに連れ、再びPMSCsは、最前線での“戦闘業務”に人員を送り出している。

■“PMSCs”とは

 1980年代までに起きた紛争や戦闘には、数多くの傭兵たちが加わっていた。そして1990年代には、東西冷戦が終結したことにより、傭兵稼業を専門とする企業、PMC(民間軍事会社)が登場しその形態は一変する。それまで小国や武装勢力が国内外で戦闘行為を行う際には、その都度傭兵や装備品を調達しなければならなかった。だがPMCは,武器など戦闘に不可欠な物資の供給体制ばかりか、事前に数千から数万人もの元軍務経験者と登録契約を結ぶことで、スキルの高い人材を確保。クライアントの予算や要望に応じ、その規模に適した戦力や”サービス”を、いつでも提供可能な体制を構築していた。またPMCは”きな臭い”傭兵稼業との棲み分けを図るべく、一般の企業同様、その所在や経営方針を明文化するとともに、株式を発行するとともに、業務内容を世間に公にしてきた。

 PMCの先駆けとされるのが、90年代に南アフリカを拠点に設立された、エグゼクティブ・アウトカムズ社(EO社)だ。EO社の創設者イーベン・バロウ氏は、アパルトヘイト撤廃後、職にあぶれた能力の高い黒人および白人の元兵士のほか、冷戦終了に伴い失業したNATO圏の退役軍人を、コントラクター(契約社員)として大量に雇用。さらに、旧ソ連諸国から軍縮により行き場の無くなった余剰兵器を安く調達するなどして、短期間で歴史上類を見ない強力な民間武装会社を創設。そしてこの武力を元に、紛争にあえぐアフリカの複数の国で、鉱物資源や天然資源などの採掘権を担保に、政府軍側の戦闘業務を請け負った。そんなEO社は、1999年にアメリカを初めとする大国からの外圧により企業活動を停止するも、21世紀には新たな動きが始まる。

 2001年9月11日に起きた同時多発テロ事件を機に、今度はアメリカ政府が、アフガニスタンおよびイラク侵攻のため、PMCに莫大な予算を投じ、ありとあらゆる軍務を委託。結果、PMC市場は急成長を遂げ、直接戦闘業務のみならず、基地設営、輸送、訓練、情報収集、整備、戦略指導、医療など、多岐に渡る”業務”を請け負い、その市場は数十兆円規模に膨れあがった。また業態の呼び名も、戦闘色の強い”PMC”から、より”響きのいい”PMSCs(民間警備会社)へと変えていった。

■PMSCs(民間警備会社)の積極的活用を示したプーチン大統領

 アフガニスタン、イラクの二つの戦争で急成長を遂げたPMSCs業界。その企業の多くはアメリカ、イギリス、UAEを初めとする中東の企業であった。だが2012年4月、大統領の座に再び就いたプーチンは、PMSCs(民間警備会社)が「ロシアが(海外紛争等に)直接介入すること無く、国益を追求するための(有益な)手段である」との声明を発表。これはロシアが、PMSCsの活用推進を宣言したことを意味した。今になってロシアがPMSCsの活用に積極的になったのか。現地メディアによるとこの背景には、プーチン大統領のいくつかの思惑があると報じた。

 一つ目が、2008年8月に起きた、南オセチア紛争である。この紛争は、ロシアへの基準を訴える運動が、グルジア国内の南オセチア地区で活発化し、グルジア軍が南オセチア地区に侵攻したことが引き金となった。ロシアは、南オセチア地区支援を名目にグルジアへと侵攻。五日間にわたる激しい戦闘により戦術的勝利を収めるも、国際社会からは激しい非難を受け、孤立することとなった。これはロシアにとって苦い経験となる。そのため将来同様の事態が起きた際には、正規軍を動かすよりも、PMSCsを送り込む方が残す“足あと”も小さく、リスクの軽減が図れるため、急速に整備を進めていった。そしてその成果は現れ、現在はウクライナからの独立を宣言したクリミアに、数百名規模のPMSCsを展開させたことで、大規模な衝突に至らずにいる。

 一つ目が、2008年8月に起きた、南オセチア紛争である。この紛争は、ロシアへの基準を訴える運動が、グルジア国内の南オセチア地区で活発化し、グルジア軍が南オセチア地区に侵攻したことが引き金となった。ロシアは、南オセチア地区支援を名目にグルジアへと侵攻。五日間にわたる激しい戦闘により戦術的勝利を収めるも、国際社会からは激しい非難を受け、孤立することとなった。これはロシアにとって苦い経験となる。そのため将来同様の事態が起きた際には、正規軍を動かすよりも、PMSCsを送り込む方が残す“足あと”も小さく、リスクの軽減が図れるため、急速に整備を進めていった。そしてその成果は現れ、現在はウクライナからの独立を宣言したクリミアに、数百名規模のPMSCsを展開させたことで、大規模な衝突に至らずにいる。

 しかしPMSCsの事業を拡大させるにつれ、プーチン政権にとって次の課題となるのは、ロシア系PMSCsを如何にコントロールし、ロシアの国益に関わる事態に適確に投入することにある。ロシアを含め世界では今なお領土、資源、民族、利権、宗教などの対立を起因とする問題が続発している。そのためロシア系のPMSCsは、国際的にも非常に“デリケート”な事態に投入される機会が増している。果たしてロシアは、PMSCsを管理仕切れるのか。この疑問に一石を投じる事態が昨年、ロシアから国を隔てたシリアにて発生した。

■謀られたロシア人“傭兵”と、ロシア政府の誤算

 2013年11月14日に、ロシアのメディア『Fontanka誌』が、あるスクープを報じた。その内容とは、香港に拠点を置くPMSCsに所属する複数のロシア人”傭兵“が、シリアの反政府武装勢力の待ち伏せ攻撃により、殺害されたとのことであった。この報道によりロシアが、PMSCsを介し、リビアのアサド大統領側に戦闘支援を行っていたことが公となった。

 事の発端は、香港を拠点とするPMSCs『Slaconic Corps社』だった。同社はクライアントの要請により、2013年8月には既に、267名のロシア人傭兵を、シリア第一の港湾都市ラタキアに駐留させていた。同社がクライアントから依頼されていた“業務”とは、シリア北東部の都市、デリゾールにあるアサド大統領側の石油精製拠点の警備であった。だが、同社が依頼を受けていた時点では既に、デリゾールの拠点は反政府側の勢力下にあった。そのため当初からこの任務は、石油精製拠点の奪還にあったとされる。だがこうした過酷な業務にもかかわらず、傭兵達の待遇は悪かった。この任務に参加した“傭兵”によると、警備任務の契約で参加したにも関わらず、現地に着いて初めて真の任務を聞かされたという。しかも契約無効を訴えると、ロシアまでの片道切符は自腹だと言われたため、しぶしぶ任務に応じたと言う。また、彼らに支給された武器も多勢の反政府勢力に到底太刀打ちできない、旧式のものばかりだった。

 結果、その後行われた反アサド政権側との戦闘で『Slaconic Corps社』の“傭兵”たちは惨敗。多数の死傷者を出しつつ撤退した。この戦闘が公にされることは無いはずだったが、八月二〇日に反アサド派のイスラム武装組織が、殺害した“傭兵”の所持品々を、『Twitter』上で公開したことで事態は急変する。公開されたのは作戦メモ、ノートパソコン、航空券などその素性を明かすに十分な品々で、そのほとんどがロシア語にて書かれてあった。さらに不可解だったのが、殺害された『Slaconic Corps社』の“傭兵”が所持していたIDカードが、何故か別のロシア系PMSCsである『Moran Security社』のものであった。ロシア系の『Moran Security社』は、タンカー護衛、洋上作戦の立案、訓練など主に海洋警備業務を専門とするPMSCsだ。また同社は、業務の多くをFSB(ロシア連邦保安庁)から請け負っているとされる。ちなみに、FSBは旧ソ連時代にKGB(ソ連国家保安委員会)として秘密活動の中核を担っていた国家機関である。

 このスキャンダルにより『Slaconic Corps社』について、様々な情報が飛び交い始める。ある情報筋によると、その正体は、シリアの反政府勢力を支援する組織が、PMSCsを介しアサド政権に肩入れするロシア政府に罠をかけることを目的に設立されたダミー会社であったとされる。同社は、あたかもロシアのFSBから依頼を受けたかのように装い、“傭兵”を集め、その行動内容を反政府側に流し、反アサド政府軍がロシア“傭兵”を撃退するためのお膳立てを整えたというのだ。

 また他のロシア系メディアによると、『Slaconic Corps社』の親会社である『Moran Security社』の株の大半をEU圏のある投資ファンドが握っていることから、西側諸国が肩入れする反政府武装勢力を支援するために、敢えて『Slaconic Corps社』の作戦が失敗するよう情報をリークしたとも報じられた。また一説では、今回の傭兵部隊派遣は、当初からFSBが裏で指揮をとっていたにもかかわらず,作戦の失敗を機に、尻尾切りが行われたとの見方もでている。

 如何なる陰謀があったかは未だ定かでは無いが、この事件後に『Slaconic Corps社』は消滅。またこの作戦に参加した複数の“傭兵”と、この会社の作戦に参加したに所属する契約社員二名は、傭兵の募集、使用、資金供与及び訓練を禁ずる法に基づきロシアに帰国後逮捕されることとなった。

■ウクライナで姿を現すPMSCs

 PMSCsはもはや、軍務を請け負うだけの単なる”企業”ではなく、紛争地域でのプロパガンダにも利用され始めている。今年3月、ウクライナ東部の都市ドネツクで市民が抗議デモを行っている最中、突如、黒の軍服を身に纏った”謎の武装集団“が出現した。その姿は動画サイトにより世界中に配信され、大きな反響を呼んだ。これに対し、親ロシア勢力側は、この武装集団はキエフ暫定政府側を支援するアメリカ政府が送り込んだ、”傭兵部隊“であると主張。また拉致された黒装束の兵士が、英語で話す映像が動画サイトにアップされた。一方、キエフ暫定政府側は、市民が多く集まっている場所に、わざわざ黒ずくめの格好をさせ、西側の銃を身に付けた武装集団を派遣する行為自体が不可解である。これは、ロシアが反米、反NATO意識を煽るために送り込んだ”傭兵部隊“であると反論した。

 PMSCsの積極活用を目論む大国。PMSCs=“傭兵集団”という負のイメージを利用し、敵側を糾弾するためのプロパガンダに活用する組織。そしてロシアという新たなプレーヤーの登場。今後PMSCsは、かつて無いほど複雑でより重要な局面に現れては、様々な影響を与えることになるだろう。米軍のアフガニスタン撤退に伴い、巨大市場を失うことなるPMSCs業界は、既に次なるステージに歩みを進めている。

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